Home
マグロ漁業ってなに?
▼ 1.マグロについて
マグロと言う名の由来は?
マグロは、生物の分類学から言いますと、硬骨魚綱すずき目さば亜目さば科マグロ属の総称です。
属名はThunnus(トゥンヌス)で、ラテン語ですが、ギリシャ語の「突進」の意が由来です。英名のTunaも属名からきています。和名の由来は諸説があって定説がないようです。鮪は古くからはシピと訓読されてきましたが、江戸時代には、マグロという読み方が一般化しました。
(監修:斎藤 健次氏)
(文:かつお・マグロ年鑑より)
マグロの成分は?
脂質がマグロの味の特徴の一つです。食品成分表(四訂)では赤身の脂質が1.4%、トロが24.6%となっていますが、冬場になると赤身では10%、トロでは40%にも達するということです。しかし不飽和脂肪酸が多いので、なめらかでくどさがありません。
赤身にはイノシン酸、アラニン、タウリンが多く、旨みとコクを与えています。また、結合組織が少なく身が柔らかいのもマグロの美味しさの一因です。
(監修・写真 齋藤 健次氏)
マグロの回遊海域とは?
マグロは全世界で7種類。クロマグロとミナミマグロは成長するについれて大回遊するようになりますが、北半球と南半球とで完全に分布が分かれています。
キハダとメバチはともに同じ海域に分布していますが、キハダは表層付近、メバチは中層付近と垂直的に棲み分けています。
ビンチョウは赤道を越える回遊はせず、北半球と南半球の集団はそれぞれ独立しています。このようにマグロはお互いの棲み分けをきちんと行うことにより、共存をはかっています。
(監修:斎藤 健次氏)
マグロの泳ぐ速さは?
マグロは餌の乏しい外洋を回遊することが多いため、餌を捕まえるために高速で泳ぐ能力を身につけました。
形態的には無駄のない,完全紡錘形の頑丈な体つきになりました。そして、高速遊泳時における水の抵抗を少なくするために、第一背ビレ,胸ビレ、腹ビレを収納する装置〔鰭収納溝〕を備え、また優れた推進力を生み出す強力な尾ビレももっています。
通常は時速30〜60kmくらいで泳ぎますが、最高では時速約160kmで泳ぐとの報告もあり、海の最速の魚といえます。
(監修:斎藤 健次氏)
マグロは、常に動いていないと死んでしまうの?
サカナはエラ呼吸で水から酸素を吸収していますが、マグロは、口とエラぶたを開け閉めして呼吸するエラポンプ呼吸が出来ないので、泳いで口中に新鮮な水を流し続ける必要があります。
したがって、常に泳いでいないと呼吸が出来ずに死んでしまいます。 カツオやカジキも同じです。
(監修:斎藤 健次氏)
マグロは、種類によって大きさが異なりますが(30キロ〜300キロ)、100キロ近くあるマグロの場合、実際刺身として食べられるのは何キロ?
釣ったマグロは、まず、エラ、内臓、尾部をとり除く(これをマルという)段階で84%。水揚げされ、次に、頭とカマを切り落とし(ドレス)、背と腹さらに左右に分割(ロイン)し、骨、皮、血合を除くと46%になってしまいます。
だから、100キロのマグロでも食べられる身の部分は46キロ。お刺身として、サクや切身でパックされるのは37kg、残りは「ブツ」や「すき身」となります。
その中でトロの部分は、約8キロ〜10キロ位です。
(監修:斎藤 健次氏)
マグロの蓄養と養殖の違いは?
マグロの蓄養は、まき網で漁獲したやせた成魚のマグロを生簀に入れ、3月〜6月の間サバ、イワシ等の餌を与えて、脂肪(トロ)をつけることです。
現在、スペイン、地中海沿岸、メキシコ、オーストラリア等で行われています。
養殖とは、卵を孵化し、生簀で稚魚から商品サイズまで大きくすることです。現在、近畿大学、独立行政法人水産総合研究センター等で取組まれています。
なお、JAS法上では、両方とも養殖と表示することとなっています。
(監修・写真提供:斎藤 健次氏)
本マグロとは? よこわとは?
クロマグロのことを本マグロとも呼びます。
マグロの中で一番大型になります。北西大西洋のカナダ、ノバスコシヤ沖で全長304センチメートル、体重679キログラムが漁獲された記録があります。
全世界の温帯域に広く分布し、低水温に強くマグロ類では最も高緯度を回遊します。太平洋では、フィリピンから北海道沿岸まで分布しています。
クロマグロの体長90センチメートル以下、体重7キログラム位の若齢魚を関西では「よこわ」、関東では「めじ」、「くろめじ」とも呼びます。
(監修:斎藤 健次氏)
(写真提供:独立行政法人水産総合研究センター開発調査部)
マグロの栄養は?
マグロの肉の赤い色は、ヘモグロビンとミオグロビンです。このなかに鉄分を多く含んでいます。マグロの鉄分はヘム鉄という体に吸収されやすい形で、同量の牛肉の約2倍、豚肉、鶏肉の約4倍、野菜の約7倍もあります。カルシウムやタウリンなどの栄養素のほか、必須アミノ酸をバランスよく含んでいるのが特徴です。
また、魚介類からしか摂れないDHAは、マグロがトップクラス。コレステロール値を下げるほか、動脈硬化性や老人性痴呆性の予防、脳の発育促進などに効果があります。
(監修:斎藤 健次氏)
一番トロの多いマグロは?
トロは内臓を包んだ腹節を指し,頭側にいくほど(カマトロ、脳天)脂が強くなります。クロマグロは腹部のトロと赤身に二分されますが、冷凍のミナミマグロは全身に脂が行きわたり、背のほうまでトロがとれます。メバチは食感が軟らかく脂はあっさりと、ほどよい甘さがあります。
(文・監修:斎藤 健次氏)
マグロの中おちとは?
3枚におろした骨の部分(骨と骨の間)についている赤身の部分をいいます。貝等でひいて身をとります。
100kgのマグロからとれる量は1.5kg位しかありません。中おちが少ないほど、さばき方が上手であるといわれます。
(監修:斎藤 健次氏)
▼ 2.マグロ漁について
マグロ延縄(はえなわ)ってなに??
延縄の長さは、約150Km(東京から三島(静岡県))。 50m間隔に、約3,000本の枝縄の先に釣鉤をぶら下げてマグロを釣ります。
延縄ではどんなマグロがとれるんですか?
マグロは水温で釣るといわれ、種類によって魚場が異なります。
最も高価なマグロは寒水帯に消息し、北半球のクロマグロ(ホンマグロ)。
南半球のミナミマグロ(インドマグロ)。赤道付近の熱帯水域にはキハダマグロ。
その中間水域に広く分布しているのが、メバチマグロやビンチョウマグロです。
(監修・文: 齋藤 健次氏)
マグロを釣る釣鉤ってどんなもの??
そして、マグロを釣る餌はなに??
釣鉤は、鉄に錆止めのメッキをかけた6cmもある大きなものです。
餌は、冷凍のいか、いわし、さば、さんま、むろあじなどを使います。 だから、幼魚は獲れません。
延縄操業の時間割は?
漁業によって違いますが、通常は、早朝2時頃から延縄を入れ始めます。
午前7時頃に延縄を入れ終わって一度縄を切り離します。
マグロの掛る時間約5時間程度待ちます。
正午頃から12時間もかけて延縄を引き上げていきます。
釣り上げたマグロの処理はどうするの?
甲板に上げたマグロの尾っぽ、えら、内臓、ひれを取り除き、血抜きをして海水できれいに洗います。 暴れまわって死んだマグロは肉質が落ちますので、ポイントは、手早く処理をすることです。
一回の操業で何尾位のまぐろが掛るの?
延縄の長さは約150キロ。50m間隔に約3,000本の枝縄が下がっています。
その先の釣針に掛るマグロの数は、10本以上かかれば大漁といわれ、平均すると5〜6本しか掛りません。もちろん0の場合もあります。
まぐろはえ縄漁が、資源に優しい漁法といわれることもうなずけます。
(監修:斎藤 健次氏)
日本を出航してから日本に帰って来るのはいつ?
魚倉がまぐろでいっぱいになれば帰って来ます。
その期間は、10か月から1年半。
長い船だと2年近くにもなることがあります。
(監修・写真提供:斎藤 健次氏)
揚げ縄はどのような作業を行うのでしょうか?
150キロの延縄を秒速4mの速さで巻き揚げていきます。
幹縄から外した枝縄は輪にたぐりまとめてカゴの中に積上げ、一杯になると翌日投縄ができるようにトモ(船尾)へ運びます。マグロがかかると減速し、モリで突いて甲板へ引き揚げます。
脊髄に針金を通してシメ、尾やヒレを切り落とし、内臓を取り、水洗い、重量測定、冷凍室作業等のマグロの処理を手早くしていきます。
(文・監修:斎藤 健次氏 イラスト:青柳プロダクション「まぐろ土佐船」)
長い航海の間、船内で行う恒例的な行事とかお祭りはありますか?
あります。その1つに「赤道祭り」。
航海中「赤道」を越える時、「赤道祭り」を行う船が多いようです。「赤道」は、船員にとって”神の領域”のような感じを持っています。寿司などご馳走をデッキに並べ、車座になって赤道通過を祝います。
(監修・写真提供:斎藤 健次氏)
長い航海の間、船内で行う恒例的な行事とかお祭りは「赤道祭り」以外にありますか?
「お正月」があります。
大晦日に餅を搗いて、神棚、厨房、機関室、縄小屋などに飾り餅を供え、船員たちのハウスに配ります。
日本から打電されてきた年賀電報が食堂に貼り出され、元旦は、おせち料理(冷凍)で新年を祝います。
(監修・写真提供:斎藤 健次氏)
「赤道祭り」「正月」以外に祝い事はありますか?
3魚倉がマグロで埋まるたびに赤飯やぜんざいを作って祝います。魚倉は1番から5番魚倉まであり、1倉づつ埋まっていけばそれだけ帰港が近づいたということになります。
(監修・写真提供:斎藤 健次氏)
▼ 3.マグロ船について
マグロ船の構造はどうなっているの?
全長約50m、幅8m。シケの漁場で操業する遠洋マグロ船はこの379トン型が多いです。 激しいローリングから船を守るため、船底の空いている魚艙にも燃料を入れて重心をとっています。
(監修・文・イラスト:斎藤 健次氏)
船によって漁獲量は違いますか?
盛漁期になると、船が好漁場に集中します。150キロのはえ縄がからまないように、一列に並んで縄を入れていきますが、1トンもの漁をする船もあれば、同じ餌や仕掛けでもポイントが外れれば、一本もかからないという船もあります。
(文・写真提供:齋藤 健次氏)
まぐろ船には何人位乗っていて、船の中の役割分担はどうなっているの?
乗組員は25人前後です。乗組員の構成は、漁撈長 (「船頭」と呼ばれ漁のすべてをコントロール、人事管理)、船長(操船の責任者)、通信長(「局長」)、機関長、一等機関士、二等機関士、一等航海士、二等航海士、甲板長、総機長、冷凍長、コック長、甲板員、機関員となっています。
(監修・写真提供:齋藤 健次氏)
船上できれいに処理したまぐろはどこへ保管するの?
魚倉に保管します。そのために、先ず、甲板にあるマイナス60度の急速冷凍室で、魚体の芯まで完全に凍結させます。 翌日、水を張った水槽に冷凍したまぐろをしたし、まぐろの表面を氷の膜で被います。その後、マイナス60度の魚倉に移し日本で水揚げするまで保管します。(超低温で保管したまぐろは、約2年間は生まぐろと変わらない新鮮な状態を保ちます。)
(監修・写真提供:齋藤 健次氏)
満杯の倉庫には、どの位のまぐろが入っているの?
船の大きさ、まぐろの大きさによってその重量、本数(匹数)は違いますが、重さで約200トンから300トン。本数で3,000本近いまぐろが入っています。
(監修:齋藤 健次氏)
(写真提供:日かつ連)
▼ 4.マグロ漁師について
延縄漁師の一日は?
操業は午前2時頃始まり、投縄5時間、縄待ち5時間、揚げ縄12〜14時間という手順で終了します。これを1操業とし、24時間サイクルで繰り返されますが、シケで縄がもつれたり、縄切れしたりすると、作業が2日がかりになる場合もあります。投縄は交替制度で、3日に一度です。
食事は投げ縄の前に朝食、縄待ちの間に昼食、揚げ縄の間に夕食と夜食との1日4回です。
(監修・写真提供:斎藤 健次氏)
まぐろ船での食事は、どのような食事でしょうか?
マグロ船での食事は1日4回。朝食は投縄前に、みそ汁、漬けもの、佃煮など簡単なもの。昼食は揚げ縄前に、マグロの刺身。夕食は焼肉、スキ焼き、とんかつなど肉をメインにしたボリュームのある物。揚げ縄中にもう一度、ピラフや煮込みうどんなどの軽い夜食が出ます。
最近では外国人の船員が多く、日本人が彼らの食事に合わせているという船も少なくないようです。
(文・写真提供:齋藤 健次氏)
外国の港に寄港した時、船員はどのように過ごしていますか?
沖では何時も同じ顔ぶれですので、港にはいるとよく他の船に遊びに行きます。船対抗でソフトボールをしたり、外国で長く暮らす日本人を招待する船もあります。
(文・写真提供:齋藤 健次氏)
乗組員の平均年齢は?
20数人がマグロはえ縄漁船の乗組員の総数です。プロ野球の世界と同じように一定期間の契約を結びます。それが過ぎれば再契約するしないは自由です。船員の高齢化も進み、現在の平均年齢は40歳を超えています。
(監修:齋藤 健次氏)
漁労長とは?
遠洋マグロ延縄漁船では、船長が航海事務や外国出入国の渉外担当に当り、漁労に関する全責任を握っているのが漁労長です。
乗組員の生命と生活、船主から船という財産を預かる船の最高指揮官で、乗組員から「船頭」「親父」「親分」などと呼ばれています。
億単位の金が動くマグロ漁。漁労長は、一旦判断を間違えれば莫大な損害をかけることになり、的確な漁場選択能力、データ分析、総営力、乗組員からの厚い信頼、そして強靭な体力と精神力が要求されます。
(文・写真提供:齋藤 健次氏)
↑
▼ 5.その他
まぐろの刺身は、いつ頃から食べ始めたの?
文化・文政(1817年前後)の頃、目の前でサッと握ってパッと食べる江戸前握り寿司がスタートしたといわれています。このスシ種に使われ評判となったのが、「ヅケ」(鮮度落ちを防止するためしょうゆに漬け込んだもの)。これが、まぐろを刺身でたべる習慣へつながったといわれています。この「ヅケ」は赤味。「トロ」を食べ始めたのは昭和の初め、それまでは、市場ではトロのことを「ネコまたぎ」とよんでいたそうです。
今でも、通は「赤身」の方を刺身の本領として好んで食するといわれています。
(監修・写真提供:斎藤 健次氏)
トロを食べ始めたのは何時から?
昔は、トロの脂っぽさが日本人の舌になかなか馴染まず、食べるようになったのは大正以降。
トロの人気が本格的に高まりだしたのは、東京オリンピック後の昭和40年頃からです。
当時、鯨カツの給食など子供のころから脂っこい食事に慣れた世代が、大人になり、洋風の食事が定着。淡白な味に慣らされていた舌が、トロの脂っぽさを旨さと感じるようになったからです。
インスタントラーメンが急速に一般化していったのもこの時期で、 トロとインスタントラーメンという両極端に位置するような二つの食べ物が、同じ追い風を受けて人気を高めていったことになります。
(監修:齋藤 健次氏)
日本人は、1年間に刺身まぐろをどの位食べているの?
まぐろの総供給量は約200万トン、このうちの約3分の1の60万トンが刺身まぐろ、そこから、エラ、内臓、尾部等を取り除くと約30万トン。
これがわれわれ日本人が刺身にして1年間に食べるマグロの量です。
刺身やすし種ひと切れの重さは10グラム〜15グラム。仮に10グラムとすると300億切れとなります。
(監修・写真提供:齋藤 健次氏)
↑