2004年12月に発効した中西部太平洋まぐろ委員会(WCPFC)の中に北委員会(NC=Northern Committee)という組織がある。この委員会は、日本がリーダーシップをとっている組織で、北緯20度以北の北太平洋に生息するマグロ類(太平洋クロマグロ、北太平洋ビンナガ、北太平洋メカジキなど)と混獲生物の保全を目的にしている。 WCPFCにはこの広大な海域(ほぼ150度以西のマグロ類の分布する太平洋)を包括して管理しているのに、なぜその海域の一部を取り扱うNCが作られたのかは、長い説明が必要であるが、簡略に言えば、日本の周辺とその接続水域は、大西洋やインド洋などの遠洋海域における日本マグロ衰退から、日本にとって最後まで守らなければならない重要海域であり、かつ、この海域は日本の多様な沿岸・沖合のマグロ漁業を抱えており、この海域におけるマグロ漁業管理の失敗は決して許されない、との日本の強い意思の現れを具現化したものであるといえよう。 さて、WCPFCを設立するためにその準備段階で多国間高官レベル会議(MHLC)や条約設立準備会議(PrepCon)という会議が何度ももたれた。MHLCでは、UNIAの成立を受けて、漁業管理に従来より厳しい条項、例えば、予防的措置の積極的適用とか、オブザーバー制度の充実、臨検制度、取り締まり体制の強化など、新たな概念の導入の必要性が論議された。日本などの漁業国は、これらの点について、現実的でより慎重な取り扱いを主張した。しかし、議長を務めたナンダン氏がUNIAを成功裏にまとめた豪腕の議長だったため、強烈な統率力で論議を短期間のうちに取りまとめたこともあり、日本等の意見は少数派にとどまった。 また、MHLCの当初から、条約水域をどう規定するかの論議で、20度以北を他の海域と分離するという案を日本は提案していた。交渉の最終段階になっても、日本の主張は大勢の受け入れるところとはならず、日本は苦しい立場になり、PrepConから離脱したことは、記憶に新しいところである。 しかしながらその後、水産庁の粘り強い交渉と説明で、20度以北を担当する北委員会にかなりの自治機能をもたせることについて、WCPFC加盟国からの同意を取り付けることに成功した。その間、1年の空白はあったが、日本がWCPFCに加盟を果たすことができたわけである。この一連の会議に私も何度か出席したことがあるが、厳しい会議であった。 さて、これだけの苦労をして、つくり上げた北委員会の事務局を日本に招致するのが日本の懸案の一つであるのだが、これがうまくいかない。日本は北委員会(NC)の事務局を日本に置きたい旨を最初から表明しているのだが、島しょ国などからの賛同が得られていない。その理由はNCに対する警戒感、特にNCの活動に対する透明性の確保にいまだ疑問を持っているようである。これは、日本が主導してNCをつくったこと、日本がMHLCから離脱したことがほかのメンバー国に悪い印象を与えているからである。 NCの事務局設置問題は、しばらく論議が必要であるが、日本のような世界一のマグロ漁業大国に国際管理機関の事務局が一つもないという残念な現状は何とかしなければならない。事務局の日本招致に向けて、日本政府、特に水産庁はもっと積極的に活動をするべきであるが、どうも息切れというか、相手を何とか説き伏せ理解を得るという気迫にかけているようにみえる。苦難を乗り越えてきたこれまでの努力をムダにしないためにも、決して招致へ向けた今後の活動を停滞させてはいけない。(おわり) |