WCPFCで目下のところ重要な懸案は、少なくとも3つある。 第一は、キハダやメバチなどの小型のマグロ類を巻網で、漁獲する方法が急速に増加し、資源状態が悪化していることである。FADs(人工浮漁礁)の周りにつく小型のマグロ類の操業が一般化する前は、自然の流木などを利用していたが、現在は、ほとんどの巻網漁船が、ラジオブイ付きのFADsをいくつも流している。 この方が、FADsの位置を正確に把握でき、操業が格段に効率化するからである。この傾向は、世界各海域で共通である。科学委員会は漁獲の強さを減少すべきと3年連続勧告しているが、加盟国の利害が対立し、一向に実効性のある規制がWCPFCで採択されないのは大きな問題である。 第二には、フィリピン、インドネシア、ベトナムなどの信頼できる統計が集まらないことである。これらの国では、中西部太平洋の漁獲量の25%強の漁獲を上げており、キハダやメバチの小型魚を多獲することから、何とか統計収集を改善強化することがメバチ、キハダの資源評価の信頼度を上げるためにも急務である。 特に、インドネシアはWCPFCに加盟してないこともあり、問題が大きい。これまで、日本や豪州がこの国の統計収集改善のために多大の資金と専門家を投入したが、広い海域にわたって種々の漁業が存在するし、インフラの脆弱さもあり、依然として、改善がみられない。 第三には、標識放流実施のための資金が不足していることである。標識放流というのは、魚を傷付けないように捕獲し、標識をつけて再び海に放し、この標識魚の獲れ具合から、分布・回遊、資源量や漁獲の強さを推定するものである。最近は、エレクトロニクスの発達で、回遊の細かい軌跡や遊泳水深などの大容量の情報を衛星などを介して収集できる記録型の標識なども使用されるようになった。 WCPFCでは、ほかの海域と違い、大規模な標識放流を過去に2回も成功させた実績があり、漁業情報とは独立の資源評価を成し遂げている。漁獲統計の解析による資源評価は、先に述べた漁獲統計の不備などもあり、その結論には不確定要素が多く含まれるのに対し、標識放流の解析による資源評価は漁業データーの正確さにあまり影響されない。 また、カツオ資源のように漁業の影響が小さい資源に対しては、漁獲統計を主に使う資源評価では、正確さに欠ける。過去2回の標識放流には日本が資金面や標識用の竿釣船の提供などに大々的に協力し、大いに日本の評判を高めたものである。資源状態の悪化が問題となっているキハダやメバチの資源評価を行うのに、この標識放流の結果が重要な情報をもたらしてきた。 しかしながら、大規模な標識放流には、多大の経費がかかる。第3回目の大規模標識放流が来年から5年間計画で提案されており、必要とされる10億円の一部しかまだ調達できていない。日本からの資金提供の意思表明も今のところないようである。10億円というととんでもない大金のように思われようが、主要な漁業である巻網船の年間総水揚げ金額の0.5%にもならない。 多くの恩恵を受けている日本などの巻網漁業団体が率先して、「えいや!」とひと肌ぬいで標識基金の一部を支えてやれば、歴史的に名を残す英断と称されること間違いない。この標識放流計画は主に熱帯海域を中心に行われるが、日本を含む周辺海域からの標識放流も同時に行うことが、計画されている。 日本の近海漁場におけるカツオがどのような経路を回遊して、南方海域と交流しているかは、いまだによく分かっていない。 水産庁は少なくとも、この大規模標識放流に合わせて、日本近海からのカツオの大規模標識放流を実施すべきである。WCPFCにおける日本に対する加盟国の信頼を深めるためにも、積極的な貢献は、またとないよい機会であるからである。 |