OPRT社団法人責任あるまぐろ漁業推進機構

第5回 「庭師のおじさん」

 WCPFC(中西部太平洋マグロ委員会)は、中国が建物を寄贈してくれ、ミクロネシアが土地を無料で貸してくれたおかげで、世界に5つある国際マグロ委員会の中で唯一、自前の事務局をもっている。

 ほかの4つの事務局はどれも、他の機関の建物に間借りなどしているが、WCPFCの事務局は、一戸建てのビルで、十分なオフィススペースがあり、敷地内には車庫や広い庭がある。現在、オープンエアタイプの多目的ホールが敷地内に建設中で、もうすぐ完成する。

 私がこの事務局に来たときは、まだフェンスはなく、敷地内は雑草が生えていた。ところが、今年は構内の植物や花が見違えるようにきれいに管理されている。これは、昨年から地元のシシリオというおじさんが、庭の手入れを始めたからである。年は聞いてないが、60歳くらいで白いあごひげを生やし、がっしりとした 体型をしている。彼は毎日やって来て、植物の植え付けや手入れを熱心にやっている。このおじさんは、ハワイで果樹や果物の栽培の仕事をしていたことがあるそうで、当地の植物の事をいろいろと教えてくれたので、皆さんに紹介したい。

 まずはマンゴーのこと。マンゴーは20メートル近くになる大木であり、ウルシ科の植物なので、マンゴーの実を食べるとかぶれる人もいる。種類が多いが、当地のマンゴーは小さくて、繊維が多く上等ではない。それでも、今年は豊作のようで、マーケットでよく見かける。

 出張したフィリピンで大きくて素晴らしい味のマンゴーを食べたので、そのマンゴーの種をシシリオおじさんに渡して、構内に植えてもらった。実がなるかもしれないが、こちらにはあと2年しか来ないから、残念ながらそれを見ることはできない。

 次にパパイヤであるが、パパイヤは雌雄異株で、最初は気がつかなかったが、シシリオおじさんから、オスの木とメスの木があることを教わった。実のなるのは当然メスの木である。以前、日本のわが家の庭に、食べたあとのパパイヤの種をまいたら芽が出てきて、そのうちの1本が花をつけたので、大喜びをしたこと がある。だが、しょせんは1本だけでは、実はならないものである事がわかった。

 こちらでも、沖縄のように、果物としても、野菜としても食べる。近くのレストランのパパイヤのピクルス風サラダは、皮をはいで、細かい薄切りにして、ニンニクを加えてありとても美味である。

 パンノキは、マンゴーほどではないが、かなり樹高が高くなり、10メートル以上には楽々成長する。パンノキの実は大変有用な食料となるので、熱帯域では世界的に食べられているが、パンとはまるきり類似点がない。パンのように有用な事から西洋人がブレッドフルーツ(パンの果物)と命名したのだろうか?

 この植物は、葉っぱも切れ込みがきれいであるので、日本でも観葉植物として売られている。おじさんによると、こちらでは人間も食べるが、豚の餌にもするらしい。とにかく安くて何にでも料理できる優れた植物である。

 青いうちに採って少し軟らかくなるまで追熟させるのが普通だが、硬めの時はジャガイモ、軟らかく熟すとサトイモのような感触と味になる。和風の煮物にもなるし、ポテトサラダの代用にもなり、もちろん、熟れた甘いものはココナツと茹(ゆ)でてデザートにもなる。スライスして油で揚げてチップにしてもいい。

 バナナのことは先にお話したので、詳しくは書かないでおく。バナナも数本構内にあるが、一回実がなると、もうその枝からはならないから切り倒し、根元から新しい芽が出るから、それを育てる。半年で実がなるそうで、パパイヤ並の早さで成長する。

 ミクロネシアでは見かけないが、東南アジアでは、バナナの木(草)の先の軟らかいところは、刻んだり、スライスして、野菜のように食べるし、バナナの房の先についている紫色の大きな雄花も食用となり、マーケットなどで売られているのを見かける。

 構内には、サトイモのお化けのような大きな葉をしたイモが生えている。クワズイモの類らしいが、若い葉っぱは、何ともおいしそうだし、ハワイで多分食べたことがあると思うので、食えるかとおじさんに聞いたら、食えないという。ところが、サモア人でWCPFCのITマネージャーに聞いたら、サモアでは食べているとい うので、試しに軽く茹でて食べてみたら、うまいのではあるが、口の中がしびれる感じがするので、食べるのはあきらめた。

 構内の花もきれいであるが、雨と太陽が交互にくるから、とにかく成長が早い。おじさんは木バサミを持って飛び回る事になる。彼が苦労して移植した木性の羊歯(しだ)の人の背丈より大きくなるヘゴノキが茂れば、ハイビスカスやブーゲンビリアなどの花に映えて、事務局もハイカラな感じになると期待している。 (つづく)

きれいに整備された事務局の庭