世界のカツオを含むマグロ類の漁獲は、戦後増加の一途をたどり、この60年間で10倍に増えた。現在、年間450万トンのカツオマグロ類が漁獲されているが、その半分はカツオの漁獲である。 ほとんどのマグロ類の資源状態が悪化し、漁獲が減少したり伸び悩んでいるのを尻目に、右肩上がりの総漁獲を支えてきたのは、ほとんどが巻網船によるカツオの漁獲量増である。 中西部太平洋まぐろ類委員会の所在するミクロネシアのポンペイでも、リーフの中でマグロ巻網船が常に中積船に転載作業を行っており、私の住んでいる高台にある家からも、夜になると船の明かりがキラキラしてきれいに見える。 南の島の人たちにとっても、引縄で獲られる新鮮なカツオは大変好まれている重要な魚で、日本人と同じくらいの愛着を持っている。カツオはマグロ類の中で、成熟するのが最も早く1歳を過ぎる頃には産卵を始め、分布も広大であり、寿命が5歳ぐらいと短く、資源の回転率が早いから、莫(ばく)大な資源量があると考えられてきた。 しかし、どの程度の最大持続生産(MSY)があるのかは分からなかった。多少とも信頼できる資源量の推定は、中西部太平洋の資源について、30年ほど前に世界で初めて、南太平洋委員会(SPC)という組織が、日本の財政支援を受けて、大規模な標識放流を中西部太平洋で行い、その解析の結果、数百万トンという報告を出した。 この驚くほど大きな値を信用していいかどうか論議があったが、当時はカツオの当海域からの漁獲量が50万トンにも達していなかった事もあり、またその後行われた2回目の大規模標識放流の解析でも、類似した推定値が出されたりして、カツオ資源はまだまだ開発余地があるという考えが一般化した。 最近の様子はというと、WCPFC海域での2007年のカツオの漁獲量は史上最高の約170万トンの漁獲が上げられている。 昨年の科学委員会の資源評価では、MSYは200−300万トンとされており、資源状態はいまだ健全であるが、カツオ資源に与える漁業の影響は増加しているとしている。 それにしても、漁獲とMSYが以前より近づいてきたわけで、カツオの漁獲がこのまま高い水準で推移することについては、昔のように手放しで楽観はできないと私は思い始めている。MSYの抽象的概念で、一度超えてしまわないと、つまり乱獲に至らないと、いくらであったかは、本当のところ分からない。モデルでのMSYの推定値には、常に不確実が伴うからである。 資源状態がよいといって、漁獲の増加を野放しにするのではなく、一度現状に漁業をしばらく固定して、資源状態を確認し、さらに漁獲増が可能である事がわかったら、漁獲を伸ばす、といった、段階的な取り組みが安全であると思う。常に警戒していないと、漁獲が増加し、瞬く間にMSYを超えてしまうというのが漁業の乱獲の常である。 カツオはマグロ漁業に残された最後の虎の子である。念には念を入れるべきであろう。 また、巻網では主対象であるカツオを漁獲する際に、資源状態が悪化しているメバチ資源の未成魚を少なからず混獲する。このため、WCPFCでは、巻網の小型メバチ・キハダの巻網による漁獲規制に踏み切ったわけで、カツオの漁獲をさらに伸ばすことには、この点からも問題を抱えている。 さらに、カツオの魚価が供給過剰で急落した事も記憶に新しい。私は、WCPFC海域の適切なマグロ資源管理を確実なものにするため、ここで、カツオ資源についても、包括的な見地から、現在の資源管理の妥当性を検証する時にきているのではないかと思う。(つづく) |
![]() カツオ(左)とスマ(右)。ソロモン、ホニアラの市場で |