OPRT社団法人責任あるまぐろ漁業推進機構

 第9回 まぐろの大回遊って、どこまで解る?(下)

 普段は極めて浅い(100mより浅い)ところを回遊しているクロマグロが時々なぜこのような深さまで、潜るのかについては、まだ良くわかっていない。さらに、詳細に記録を解析すると、産卵行動がいつ起きているか、解るかもしれない記録が有ることも解ってきた。回遊の経路や季節性の程度(つまり、毎年決まった季節に餌を求めてとか、産卵のために決まった海域に回遊してくる程度)も具体的にわかってきた。マグロに標識を打った地点と再捕獲地点しか解からない通常型標識のみの情報しか入手できなかった時には、再捕獲地点が、1年も経っているのに、標識放流地点とほぼ同じで、時期も同じである例が結構あった。この情報から、マグロ類はあんまり動かないのではないかとする一方、他の標識では大回遊をするという事実もあり、どう理解していいか科学者の中で混乱があった。
 最近の記録型標識の情報から、個体差はあるが、大局的に見ると、マグロの回遊のパターンはクロマグロなどではかなり強く確立されているらしいことが判明しつつある。漁業は季節回遊するマグロを対象としているわけであるから、1年経っても、多くの魚が同じ回遊パターンを保持していたら、標識地点と近いところで再捕獲されることがあっても、マグロがその間にその海域に留まっていたわけではないのである。しかし、あらゆることが、記録型標識で明らかにされたわけでないことも、最後に付け加えておきたい。
 大西洋クロマグロの回遊経路について、随分、昔のことではあるが、遠洋水産研究所では延縄漁業の釣獲率の時間的空間的な変化から、詳しいマグロの回遊経路図を想定したことがある。漁業者の漁場が季節により変化することから魚の動きを読むと言う基本的な方法である。ところが、最近の記録型標識の情報とそれが、ほぼ完全に一致していることに驚いた。同時に“研究者は漁業者に学べ”という海洋学の泰斗であった故宇田道隆先生の言葉が身に染みた。コンピューターの中の魚しか知らない研究者がこのごろ多いが、もっと漁業者と論議するよう心がけ、色々な古典的情報(すなわち、この時期にこの海域で海が雄の放精で白くなるぐらいになるのを見たとか、魚は決まった時間に餌にかかるとか)等も最新の情報との一致度を比較してみたらどうであろうか。例えば、ミナミマグロで未だ解決していない論争である漁場となっていない所にどれだけのミナミマグロがいるのかを推定するには、漁場の広がりと記録型標識による漁業とは関係なく得られる魚の動きとを比較することで明らかにできるはずである。
 漁業者から得られる漁獲情報と最新技術の組み合わせが、資源の状況評価をより一層確かなものとするであろう。