OPRT社団法人責任あるまぐろ漁業推進機構

第8回 まぐろの大回遊って、どこまで解る?(上)

 私が40年近くマグロ資源の研究をしてきた中で、この10年くらいの間のマグロ類の回遊についての知見の増加は、間違いなく第一に特筆されるべき研究成果といえる。「記録型標識」の開発が、研究を飛躍的に進めた。ICを利用した小型の電子標識の開発の結果だが、最新式のものは、標識をマグロから切り離す時刻を放流時に予め設定することができ、決められた時刻に自動的に魚体から切り離されて、海面に浮上し、浮上した標識から記録情報が発信され、人工衛星を経由して、位置や遊泳水深等の詳細な情報が得られるのだ。標識を打ったマグロを、再度捕獲しなくても情報をとることができる。この標識が出来れば、ノーベル賞ものと言われた大発明である。標識が高価で衛星回線の使用量を含めて、1本100万円位するし、装着器具の開発も、まだまだである。ほぼ1年以内に、魚から脱落するという問題もあり、改良の余地はあるが、研究者や漁業者が長年解からなかった回遊の実態が次々と明らかにされている。いくつかの興味ある新知見を紹介しよう。
 クロマグロが大回遊をすることは、古くから知られていたが、記録型標識により、その実態が明らかにされてきた。大西洋のクロマグロも太平洋のクロマグロも2歳ぐらいになると大洋の横断を繰り返す。大西洋のクロマグロについて、アメリカ東岸で放された大型魚が地中海で漁獲されることは従来から知られてきたが、この記録型標識で、このようなクロマグロは元々地中海からアメリカ東岸へ回遊していた可能性が強まった。つまり、米国東岸から地中海に産卵に戻っていく過程であったと思われる。今のところ、地中海での記録型標識が少ないので、もっと多数を標識すれば、恐らくヨーロッパと米国・カナダ沿岸のクロマグロは、相当な高率で混合していることが明らかになるだろう。また、クロマグロが1000m近く潜ることが解かってきた。漁業者の中で記録型標識の情報が入る以前にこのことを言っていた人がいたが、私も含めて、信用しない研究者が多かったのは、浅はかであったと反省すべきであろう。