それでは、今なぜ懸案だったマグロ研究所が出来たのか?もっとも、このマグロ研究所なるものは、水産総合研究センターのホームページ等を見ると解かるように、ネット上に出来たまぐろ類研究機動部隊のようなもので、新たな研究所の建物が実際に出来たわけでなく、資源、増殖、利用加工等の既存の水産研究所の勢力が中心になり、そのもてる力を総合的に使うというものである。もともと存在してしかるべき研究所であったから、その体裁にこだわる気はないし、やっと出来たかという感慨がある。なぜ今かという事を考えるとき、最近の一連のまぐろ資源管理を巡る日本の苦戦を思い起こしてほしい。その最たるものは、ミナミマグロや大西洋のクロマグロである。ミナミマグロでは豪州の蓄養の過剰漁獲疑惑は灰色に留まり、日本への規制強化が際立った。研究者ならずとも、何でこれだけクロマグロなどの蓄養の実績や飼育の経験がありながら、この疑惑に対して日本側が、明快な答えを出せなかったのかという事は、行政官にとってもやりきれない無い思いであったに違いない。 クロマグロについて言えば、太平洋のクロマグロについても、WCPFCの活動が本格化し、北委員会も動き出し、真剣に資源管理のあり方を考えなければならなくなっている。かつて海洋牧場という大きな研究プロジェクトがあり、太平洋のクロマグロも遠洋水研等が中心に参画したが、残念ながら、十分な成果を上げることなく終わった。大西洋のクロマグロの資源管理の混迷を見るにつけ、太平洋のクロマグロをこのような状態にはさせてはならないという危機感とそのためには、これまでバラバラに行われてきた色々なマグロを巡る研究を一元化して行うことが不可欠という意識が高まったためマグロ研究所の設立となった、と私は理解している。今こそやり残した海洋牧場計画を完成するくらいの意気込みでやるなら前途は明るい。このまぐろ研究所が持続して本来の任務を果たすのか、あるいは線香花火のように短命で消えてしまうのか、日本のみならず、世界のマグロ関係者が注目して見ていると思う。どうかこの研究所の設立が日本のマグロの研究と管理の改善のターニングポイントであったとして、後世の人から評価されるものにしてほしい。 |