以前、大西洋クロマグロの資源状況が悪くなったときに、減少している親魚の卵質、つまり健全な子孫となる要素に関し、より高齢の親魚の方が若齢の親魚より優れているので、大型の親魚を保護する必要がある、という論文が話題となったことがある。
この論文はクロマグロについての論文ではなく、寿命の長いメヌケやタラ等に関して出された仮説(母系効果と呼ばれる)であるが、同じ長寿命のクロマグロにもそういうことがあるのでは、ということで、環境保護団体や一部の研究者が注目することになった。この仮説は関連する文献を集めて、推論したもので、実証されたものではなく、対象とした魚類も限られている。
その後、大西洋クロマグロの資源回復基調が確認され、この仮説に関するマグロ類に関する論議は聞かなかったが、この仮説がほかの魚種で成り立つのか否かを、飼育実験で検証しようという研究がサバやカタクチイワシで始められている。
さて、マグロ類の資源評価における親魚資源量の見積りは次のようになる。
漁獲等の影響で資源が減少する場合、まず、大型魚から減少が始まる。これは、大型魚がより値段が高いので集中的に漁獲されるばかりでなく、漁獲圧が強まるにつれて、魚が成長して成熟する前に小型魚を漁獲するようになり、親魚が減少するからである。さらに親魚が非常に減少すると、生まれてくる次世代まで減少し、深刻な乱獲となる。
資源評価では、若齢の親魚でも高齢の親魚でも、生み出される子供の成長や生残には変わりはないものと想定している。
先に述べた母系効果、すなわち、「大きくて高齢の親は若齢の親より質の良い大きい卵を生み出し、成長の速い子孫を残すことにより、再生産にとって、より重要な役割を果たしている」があれば、従来の資源評価で考慮されていない新たな要素を親魚資源量の計算に考慮する必要がある。
先に述べたサバやカタクチイワシは、マグロ類に比べて寿命が短いので、クロマグロ類のような長寿の魚で、母系効果があるかどうか気になるところである。母系効果の有無は資源評価の親魚資源量の推定にも重要かもしれないし、クロマグロ養殖にとっても、生き残りが良くて成長の速い卵を生み出す最良の親魚年齢があるか否かは重要であろう。ただし、あまり高齢魚になると、老齢のため、逆に卵質が悪くなるのではないかという疑問もある。事実、比較的寿命の長いブリでは、2−3歳魚の母系効果が高くて、その後は低くなり、必ずしも年齢が高くなれば上がるものではないようである。
クロマグロは飼育が長期にわたって可能であり、今後母系効果の実態が明らかにされることを期待したい。
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