ウミガメ類は主要な種として、5種ほどあるが、これ等はすべて絶滅の恐れがあるとされ、CITES(ワシントン条約)のリストI(国際取引の禁止)に分類されて久しい。ところが、長年厳しいウミガメの捕獲規制が行われてきたハワイでは、米政府が最近メカジキはえ縄漁で混獲(偶発的に捕獲)されるウミガメの規制を緩和し、アカウミガメとオサガメの混獲の上限尾数を、それぞれ17尾から34尾へ、16尾から26尾へと増やした。メカジキ狙いのはえ縄漁船はマグロを狙うはえ縄船よりずっと浅い水深に釣り針をセットするので、表層水域を遊泳しているカメ類は混獲されやすい。そのため、これまで厳しいカメ類の混獲規制が課せられていた。日本とハワイのアカウミガメは同じ系統群であり、最近日本での産卵個体数が増加傾向にある。これも、規制の緩和を行った背景にあるのではないかと思われる。ハワイでは、アオウミガメも増えている。世界の主要なウミガメ類は、すべてが減少しているわけではなく、資源動向が安定または増加しているウミガメ類もかなりあり、どの海域でも減少し続けている種はないようだ。しかし、世界中でウミガメ類保護の取り組みが進んでいるにもかかわらず、太平洋のオサガメはいずれの海域でも減少が続いている。この点から見ると、今回のハワイのメカジキはえ縄漁におけるオサガメの混獲規制の緩和がどのような根拠で行われたのか興味あるところだ。
ウミガメ資源の変動要因は不明な点が多いが、漁業と漁業以外の要因に大別してみよう。漁業では、トロールやはえ縄、流し網等が混獲しているし、卵や肉を重要な食料としている地域も発展途上国を中心に世界中にある。漁業以外の要因には、産卵場の人間活動による破壊や照明、騒音による産卵行動の障害、浮遊するプラスチックやビニール類の誤飲による死亡、卵の野生生物による食害等、さらに気候変動なども関連しているようだ。
これら諸要因がどの程度の影響を与えているのかは不明である。
漁業がやり玉に挙げられがちであるが、産卵場での保護の取り組みの結果、資源が急速に回復した場合もある。漁業が主たる原因であれば、いくら産卵場で保護しても回復はしないはずだ。また、ウミガメの中で体重が1トン近くまで成長し、カリスマ性に富む太平洋のオサガメ資源の減少は、主産卵域のニューギニアで、野ブタなどによる食害や人間による卵の採取などもあり、漁業だけを目の敵に規制しても、保護の効果は上がらないと思われる。さらに、ハワイのアオウミガメでは、産卵場の保護活動を充実させてから数年内には資源回復が始まったことも報告されており、成熟に10〜20年もかかるとされてきた既往の生物情報に対する疑問も出てきた。結論として言えば、ウミガメ類の資源保護には漁業以外のもろもろの死亡要因を含めた調査研究が必要であり、同時に不明な点の多い生物特性の解明や最近導入された混獲を回避する漁具の改善や産卵場の保全活動の一層の充実にも努めなければならない。海がめ保護には漁業を規制すればよいとするような、単純かつ感情的な保護運動に変えて、このような総合的視点にたった科学的な海がめ保護運動に発展することを期待したい。
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