広い海の中で、マグロはどうやって飢え死にしないように餌を確保しているのだろうか? 匂いや音、視覚などを敏感に察知して餌を探すのだろうか? 海は広すぎてそんなものはたまにしか役に立たないかもしれない。そうすると、大抵は餓死する場合が多く、運のいいやつ(群れ)がたまたま生き残るのか?このような答えのない疑問に対する有力な仮説が最近提案された。マグロやサメの研究例が論文の骨子を形成していることから、興味深いので、簡単に解り易く紹介したい。
学校の理科の時間に、ブラウン運動と言うのを習ったことがあるでしょう。
花粉を潰して、出てきた微粒子を観察すると、複雑な不規則運動をする現象のことだ。微粒子は、チマチマと同じところを何回も行ったり来たりして、団子状に動いている。一方、この動きと対照的な動きがレービ運動(飛行)と呼ばれるもので、方向性を持った長い距離の移動を主体に短い距離の移動が交互に出てくる。ブラウン運動もレービ運動もそれを発見した科学者の名前からきている。この2つのタイプの動きが、マグロやサメ、アホウドリ等の生息範囲の極めて広い生物の餌の効率的な取り方に関連していると言うのが、この説である。
餌の多いところでは、ブラウン運動が、餌の少ないところでは、レービ運動が起こっていると言う。つまり、餌の多寡によって、捕食行動の使い分けがあるようだ。餌の多いところでは、当然なるべくそこに長くとどまっている方が餌は効率よく取れるし、餌の少ないところでは、広範囲に餌を探しまわる必要があると言うわけである。そんなのは当たり前のことではないかとも思われるかもしれない。しかし、もともとこの2つの行動現象の把握は、純粋な数理的な研究から派生したものであり、このような現象が、実際に、生物の行動にまで関与している可能性を実例に基づいて、実証したところに大きな意義がある。例えば、メバチの遊泳生態には、FAD(人工浮き魚礁)についている時と、そうでない時で、明確なパターンの差があることが記録型標識による行動追跡から解っている。FADの周りについている時は、ブラウン運動的で、FADを離れている時は、レービ運動的パターンである。この動きのパターンは3次元的に起きることも知られている。600mも深く潜る時は、FADを離れている時であり、恐らく垂直的にも、餌生物を探して、深く潜水するのであろう。ビスケー湾の生産性の高い海域とそれに隣接するイギリス近海の生産性の低い海域で、サメの回遊パターンが明確に、ブラウン運動とレービ運動に分かれることも明らかとなっている。
さらに、これらの運動パターンの自然現象との関わりについては、将来いろんな研究に発展する可能性がありそうだ。例えば、人類の起源はアフリカにあり、それが世界各地に派生したと言われているが、この派生の過程にひょっとして、この運動原理が噛んでいたかもしれないとか、悪性インフルエンザが広がる過程にも何か関連があるのかとか、色々と派生的な興味がわいてくるとの解説もある。人間の知恵が逆立ちをしてもかなわない凄いことが、自然界では当然のこととして、起きているようだが、皆さんの感想はいかがですか?
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