ベトナムのマグロ漁獲量についての公式統計は存在しない。いろいろな情報から、カツオ・マグロ類の生産が、年間3万トン程度あるのではないかと言われている。
ベトナムで漁獲されたマグロ類は輸出向けが多いが、EUから”マグロ資源の地域管理機関に加盟していないベトナムからのマグロ類の輸入を認めない”、と言われ、中西部太平洋マグロ委員会(WCPFC)に急遽加盟申請し、現在は、協力的非加盟国として認知されている。
WCPF Cは、昨年から、これまで漁獲統計の不備があったベトナム・インドネシア・フィリッピン3カ国のマグロ類の統計収集プロジェクト(WPEA)を立ち上げ、活動を開始した。これに関連して、ベトナムの主要なマグロ水揚げ港を回ってきたのでベトナム・マグロ事情を簡単に紹介しよう。
ベトナムは、現在、南シナ海でマグロ漁業を行っている。この海域には、かつて日本のマグロはえ縄船も操業してキハダ・メバチを漁獲していたが、今は操業していない。南シナ海は、海底石油などの利権をめぐり、中国、台湾、フィリピン、ベトナム、マレーシア等が互いの領有権をめぐって対立をしており、政治的な問題を抱えている海域でもある。
ベトナムで大型マグロを狙うマグロ漁業の主体は、木造の小型船(10トン程度)による延縄漁業である。延縄のほかには、小型の流し網と巻き網が、カツオやソウダ等の小型マグロ類を狙って操業している。同じ船で流し網と巻き網の両方の操業をすることもしばしばある。漁船隻数は、極めて不正確であるが、延縄漁業:800〜1,000隻、1航海が15〜30日で、キハダ主体にメバチ混じりで、1〜5トン/隻の漁獲、漁期は11月から5月。流し網漁業:1,500〜2,000隻、1航海約30日で、カツオ・ソウダ・アジ等、巻き網漁業:少なくとも500隻ある。
はえ縄船の水揚げを見ていると、鮮度が相当落ちているし、扱いも粗雑な感じを受ける。ただし、ベトナムでは鰓や内臓を除く作業を女性がやっているのには驚いた。男にも負けないほどの手際で次々とさばいて、計量、選別(刺身用か加工用)に回していく。巻き網や流し網では、カジキ類の混獲がかなり多く、気になる。大きなマンタも漁獲し、ぶつ切りにして、食用として売られている。味はどうかと聞いたら、「うまいよ!」という。
ベトナムでは、漁獲成績報告書の提出を昨年から義務づけ、WCPFCの協力で、統計収集や水揚げ量調査、体長測定なども本年からスタートしたばかりであり、ベトナムの研究者・業界・政府が一体となって、取り組んでいる。200万人の漁師がおる一方、年々2万人増え続けていると聞くし、乱獲の兆候がかなり鮮明に出ている。
漁業管理のための行動計画の作成も遅ればせながら進められている。人々は親日的で、日本に寄せる期待は大きい。その期待に応え、良い統計を集め、WCPFC海域の資源の管理に役立てたいものである。
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