「オーシャンズ」という海の生物を主題とした映画が、今年、日本でも放映されたようである。この映
画のことを書いた記事が新聞(朝日新聞1月15日夕刊)に出ていた。記事によると、映画のなかに、
ふかヒレ漁師がヨシキリザメのヒレだけ切り取って、胴体を海中に投棄する場面があるそうである。監
督いわく、実はこのヨシキリザメは作りものである。さらに、"私たちは実際の漁の映像を見て、それを
忠実に再現した。だって、私たちはサメが、そんなひどい目に遭っている場面に立会、観察者としてカ
メラを回すことなどできませんから"とあった。
私に言わせれば、監督は、映像でなくて、実際の漁をまず見るべきであった。そうすれば、サメを殺
さずにヒレだけとることがどれだけ漁師にとって危険であり、非現実的であることがわかるだろうから。
監督が、映画用に脚色したことを認めている点は正直である、だが、その理由に言及した時に本音ら
しきものが出た。つまり、"こんな残酷なヒレ切りは止めさせるべきだ"、おまけに、"東洋人が中華料
理用にヒレを捕りまくるのでサメ資源が壊滅的に減少したのだ"との短絡的な思い込みが本音にある
ように感じられた。
国際的な流れとなっているサメのヒレ切り禁止(ヒレだけを取ることは禁止し、ヒレを取るときは、魚
体も持ち帰らなければいけないとする規制)の合理性に関しては、疑問のあるところだが、その流れ
ができたのには、サメや亀や海鳥を混獲する延縄漁業の全面禁止を目的とする一部の環境保護団
体の影響力が大きい。(混獲対策は、漁業管理機関の主導で導入されている)。しかしながら、サメ
資源保護の必要性から見れば、遠洋水域で延縄で漁獲する外洋性のサメは一部の種を除いて、資
源的には問題が無い。問題なのは、沿岸でまぐろ延縄以外の漁業で漁獲される大型のサメである。
だから、マグロ延縄のヒレ切りを禁止にしても効果はあがらない。さらに、遠洋延縄での漁獲の大半
を占めるヨシキリザメ資源は、おおむね健全であるので、その保存のために具体的な規制措置は取
られていない。遠洋の延縄船でのヒレ切りを禁止しても、本当に資源的に問題があるサメの資源保
護にはつながらないというのが私の意見である。
"すべてのサメ類は繁殖力が弱く、漁獲するなどもってのほかで、特段の保護が必要である"という
意見も正しくないことがわかってきた。もちろん、特定のサメ資源の減少が問題になれば、その特定
資源の保護が必要で、ICCATなどの地域漁業管理機関での科学者による資源評価に基づき規制措
置が導入される。例えば、まぐろ延縄で時々漁獲されるヨゴレと言うサメがいるが、どうも資源状態が
悪いようである。ただし、このサメは巻き網のFAD操業(人工的に集魚装置を流してマグロを効率よく
漁獲する)でもかなり獲られるので、マグロ延縄というよりは、FAD操業の方が問題なのかもしれな
い。いずれにしても、残酷で可愛そうだからとか、中国人の食べ過ぎ等の感情で、不合理な規制をま
ぐろ延縄を狙って国際的に導入していくのは、おかしな話だ。
一方、サメのヒレ切り禁止の理由の一つであるサメのヒレだけでなくて、肉も捨てることなく利用す
べきという点は妥当である。昔からサメ肉の利用加工を行ってきた東北地方のみならず、いろいろな
方面で、この点についても取り組んでいるが、魚離れが進んでいると言われている状況で、サメ肉の
新たな需要を生むには、相当な知恵と工夫が必要であろう。食味のことゆえ、これには時間がかかる
ので、長い目で見る必要があろう。
感情論で、誤ったサメの資源管理措置が、導入されることを防ぐために最も重要な点は、サメの資
源状況を的確に把握することだ。問題は、基本的な漁獲統計や生物学的情報が極端に不足している
ことである。この問題に取り組むために、日本等が先導して提案をした国別あるいは国際的なサメ類
資源管理に関する行動計画が採択された。ところが、この行動計画にまじめに取り組む国がほとんど
ないと言ってよい。サメのヒレ切り禁止で事足れりとするような向きもあるが、基本的な統計が欠落し
ていては、ヒレ切り禁止が有効であるかどうかさえわかわからない。今回の記事を読んで、行動計画
への国際社会の更なる積極的な取り組みとそれを押す日本の馬力が必要だと痛感した。
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