昨年、まぐろに関連する番組制作のために来日した2つのフランスのテレビ会社から相次いで取材を受けた。一つはフランス国営放送、他の一つはCanal+という有料テレビ会社であり、いずれも多くの視聴者をもつ国際的な放送機関である。前者は"農林水産物の過剰利用"について、後者は"すし"がテーマだったが、双方とも「まぐろを日本人が食べすぎており、これが世界のまぐろ資源の枯渇をもたらしているのではないか?」という国際環境保護団体の日本いじめのおなじみの主張もインタ
ビュー等を通じて裏付け報道したいようであった。
このインタビューで解った、日本人のまぐろ食に関して西欧人に共通する誤解等、彼らの視点と私のコメントを2、3紹介したい。明らかな誤解の方から行くと、(1)まぐろというと、地中海のクロマグロしか頭にないふしがあり、すべてのまぐろが絶滅の危機にさらされていると思っている、(2)"すし"と言えばまぐろしかないように思っている、(3)まぐろは水銀を含んでいて食べない方がいいと思っている等である。
これについて次のようにコメントした。
(1)地中海のクロマグロはまぐろ類の中では、極めて資源量も漁獲量も少ないまぐろで、主要漁獲物であるキハダやメバチ等の他のまぐろ類を合わせた全資源量や漁獲量の2〜5%しかなく、まぐろ類の絶滅の可能性は、地中海のクロマグロでも、ほとんど無い。
(2)まぐろはすしのネタとして、重要ではあるが、すしは新鮮であれば、ほとんどすべての魚がすしになりうるし、いずしやなれずしなどが原点にあり、まぐろの握りなどは高々200年ほどしか歴史はない。(日本の豊穣な食文化を知ってほしいと示唆)
(3)本コラムの第4回にも書いたとおり、水銀は含んでいるが、水銀の毒性を無くすセレンという元素も同時に含んでいるし、健康に不可欠な良質の脂肪酸を多く含んでいるので、何ら問題なく、妊婦や子供なども積極的に食べてもらいたい。
「日本人がまぐろを食べ過ぎることがまぐろ資源の乱獲・絶滅につながる、日本人はまぐろの消費を減らすべきでないか」との馬鹿げた質問については、一部のまぐろ類が乱獲されている直接的原因は、研究者の資源保護への助言を多くの国の管理当事者が聞き入れないこと、規制を守らない漁業者がいること、また漁業者への指導・監督の不徹底な国があること等説明した。
国営放送のフランス人インタビューアーは、「飽食」がお気に入りのテーマだったようで、彼曰く、「俺は菜食主義者であり、人間が菜食主義者になれば、食糧問題もずっと楽になるはずだ」とか、「まぐろの蓄養は肉牛の肥育と同じで、安い蛋白を高い蛋白に置き換える際のエネルギーロスを考えると、馬鹿げている」とか、はては、「人間社会は近い将来滅亡に向かうのにおまえは何でそんなに平然としていられるのか」等と言って意見を求めたので、「当節は前向き思考でないと生きていけない、あなたもそう思うだろう」とボソッと言ったら、にやりと笑っていた。インタビューの意図に沿う発言が無かった
ので、放映されなかったかも知れないが、西欧人の日本に対する誤解や偏見がまだまだ強いと感じた次第。
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