本年6月、スペインのサンセパスチャンで第2回目のマグロ類地域漁業管理機関の合同会議が開かれた。過剰な漁獲努力量の削減等、山積する難しい問題を解決するための作戦会議なのだから、そう簡単には成果は上がらないとは思っていた。問題解決のための幾つかの作業部会の開催が決まったが、次の会議まで問題は先送りされた。なかでも、過剰な漁獲努力量の削減については、解決の糸口さえ見えないのが現状である。漁獲努力量が現在、中西部太平洋ではどうなっているかメバチ資源とまき網に焦点を当てて問題を考えてみよう。
<うなぎ上りに増加する巻網の漁獲量>
南太平洋の島国の利益を代表するフォーラム漁業委員会(FFA)は彼らの影響力を行使できる外国巻網の漁船隻数の制限を続けてきた。2008年現在でも隻数から見る限り、この枠の中に制限されているようである。しかし、かつては、巻網の主要国の一つであった米国のまき網船が減少し、それを埋めるかたちで、外国船が、島国に置籍あるいは合弁に乗り出すなどして、島国の巻網船数は急速に増加している。島国の間でも、外国船の取り扱いをどうするかは、国によって異なり、FFA諸国が完全に一枚岩とは行かないようである。現実に、巻網による漁獲量はうなぎ上りに増えている。人工集魚装置(FAD)の性能向上とその使用が増加して漁獲効率が上がった事、巻網漁船の大型化、漁獲物の運搬船への転載で、より多くの漁獲物を取り込むことが出来るようになったことの他に、さらに主要漁獲物であるカツオの発生量が増加していることもあるかもしれない。
<メバチに深刻な懸念−カツオも大丈夫か>
まき網の主対象はカツオであるが、ついでキハダも狙っている。メバチは狙ってはいないが、FADを使用すると、必ずメバチの幼魚が混獲される。資源量はメバチ、キハダ、カツオの順に大きく、資源状態はカツオ、キハダ、メバチの順に悪くなる。以前は延縄で主に漁獲されてきたメバチ資源が、まき網のFAD操業で混獲される幼魚の増加で赤信号がともり始め、2009年からメバチへの漁獲圧力を30%削減するという漁獲規制がようやく始まった。しかし、この規制の元となった資源評価は数年前の漁獲の強さで計算されているので、近年の漁獲能力の増加を勘案すると、この30%の漁獲圧力削減の効果はほとんど無いのではないかと危惧される。言い換えれば、更なる規制の導入は避けられないということになる。にもかかわらず、漁獲圧力が依然として増加し続けているわけで、このままでは、キハダも更にカツオさえも資源の先行きが心配になってくる。
メバチについては、更に、深刻な懸念材料がある。それは、巻網で混獲されるメバチの漁獲推定量が大幅に過小になっているということである。資源評価に使われるメバチの漁獲量は各国の申告に基づくが、巻網の場合、メバチの幼魚はキハダの幼魚と誤って報告される場合が多い。つまり、キハダとして報告されている小型魚の中には、2−15%のメバチが含まれていることが判っている。ところが、小型メバチの巻網による混獲量を科学調査で補正している国は、日本と米国しかない。漁獲の大半を占める台湾、韓国、中国等の日米以外の国のまき網漁業によるメバチの混獲率の補正はまったく行われていないため、彼らの混獲率は、日米の混獲率の半分以下である。FAD操業が一般化している中で、このような大きな差が国によってあるとは考えられない。つまり、日米以外の国のメバチの漁獲量は実際には、はるかに大きいと推測される。これは研究者のみならず、一般的に知られていることである。そうすると、現在の規制の元となった資源評価や資源の将来予測は大幅に楽観的であり、実際にはもっと資源状態が悪くなっていると考えるべきである。
<出来そうな対策から早急に>
過剰漁獲圧力の削減、特にまき網のそれは、今のところ世界的に見ても、どこの海域でも、遠洋漁業国と発展途上国との対立で、どうにも出口が見えない。とすると、一般論的な過剰漁獲圧力の削減論議の進展を待たずに、とりあえず、できそうなことからやることが大事だ。それは、FAD操業の更なる規制と巻網によるカツオの選択的漁獲方法の早急な開発であろう。
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