OPRT社団法人責任あるまぐろ漁業推進機構

第10回 親がなくても子は育つ? まぐろ類の親魚と小魚との関係

 皆さんはまぐろの親の数が減ってくると、それから生まれてくる子供の数も減ると思うでしょうね?と持って回った言い方をしたのは、親が減れば子供も減るというのは、まぐろ類の場合、むしろ稀なケースであることを知ってほしかったからである。もちろん、親が全くいなくなると、子供が生まれてこないことは確かですが。まぐろの場合、親魚の数が80%も減っても、子供の数は平均的には殆ど変わらないことが多い。例外は乱獲の激しいミナミマグロで、親魚の量も子供の量も減少している。どうして親が減っても子供が減らないのだろうか?理由は、未だに良くわかっていない。
しかし、この現象を説明する仮説はある。有力な仮説は、孵化後、数週間の稚魚の時代にいくつもの生き残りの難関があり、この難関をどう乗り切るかにより子供の量が決まるというものである。産卵された卵の量(つまり親魚の量に相当する)より産まれた卵がどの位生き残るかが重要な鍵であるという説である。クロマグロでは、孵化後1ヶ月を越えると死亡率は、ぐんと低下するが、それまでに、99%以上の稚魚は死滅する。
 どのような難関があるかと言うと、まず、孵化後、稚魚は、最初の餌である動物プランクトンにうまく出会わないと全滅する。稚魚は飢餓に弱く、十分な餌を取れないとすぐに死んでしまうのだ。次に稚魚が成長して餌の好みが変わり、他の魚の稚魚を食べるようになるが、その時もうまく餌に出くわす事ができるかどうかで、生き残り量が大きく変化する。まぐろの稚魚の姿を見ると、口の部分が体の半分近くあり、鋭い歯と大きな目をぎらつかせて、まさに鬼の様に見える。こんな魚は、他にはない。これだけを見ても、まぐろにとって、いかに餌を得る事が生き残りに大事かと推察できる。仮にものすごく沢山の親から多くの稚魚が孵化しても、これらの幾つもある難関に遭遇して、その後生き残る子供が、極めて少なくなる場合があるかと思えば、一方、産卵量が少ない時でも、これ等の難関を運よく乗り越えて、大量の子供が生き残る事もある。ほんのわずかな生き残り率の変化がその後、漁業の対象となる子供の量の莫大な差となる。それで、子供のまぐろの量は、年々大きく変動するものであり、親の量とは関係がないと言うわけである。
 今年7月に日本で行われた、太平洋クロマグロの資源評価会議で、このクロマグロ資源が、良い状態にあり、今後漁獲を増やさなければ、現在規模の漁獲量を継続できる可能性が高いことが解った。しかし、同時に、産卵する前の小型魚の漁獲を減らせば、総漁獲可能量は増加すると指摘されている。ここで大事なのは、前述のように、まぐろは或る意味では、“親がなくても子は育つ”のだから、どんどん獲っても良い、という事にはならないということである。最新の資源評価では、過去50年ぐらいの漁業の歴史で観察された範囲では、親の量とそれから生まれてくる子の量に関係がなかったという事だが、将来、親魚が大幅に減った時でも、次の世代の子供の量が減らないという保障はないし、むしろ、減る可能性は増えるわけである。一度親も子供も減るようになると、厳しい漁獲制限をしないと、資源状態は急速に悪化する。まぐろは長生きの魚だけに、回復に10年も20年もかかるので、なんとしてもこの状態に陥る事は避けなければならない。
少なくとも、最低の水準の親魚量は確保する事が、資源の持続的利用に適った獲り方であるし、小型魚の大量漁獲を減らす事も重要であろう。